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作成:2004年3月17日
4月・落人の里 越後秋山郷
1998年4月上旬 

 ――越後の山峡にひっそり佇む平家落人村――

 幕張新都心のビル群に長く勤めているせいか、あるいは単なる歳をとったための若いころへのノスタルジアか、最近は、昔見た『ど田舎』の景色を無性に見たい。
藁葺き屋根、庭先での仕事、放し飼いの鶏、牛、馬。
しかし、千葉も茨城も農家は立派な瓦、車庫付で、敷地もガ
デン風に手入れされている。昔風の田舎を見に行こう。

 信州の安曇野に行くつもりで家を出たが、中央高速が大渋滞。よし、関越で越後の山奥へ行こう。
目指すは秋山郷、塩沢石打I.Cを下りて、353号線から信濃川沿いの117号線を信州野沢方向へひた走り。飯山線・越後田沢駅への交差点を左に曲がり、405号線を津南、清津峡、秋山郷まで1本道。山峡がだんだん狭くなり、中津川の川音が近くに聞こえるようになると、来た,来た,田舎に来たよ。

………、田園風景だけど、しかし、………田舎だけど、しかし……。
藁葺き屋根の農家は歴史民族資料館で保存されていた。藁葺き屋根の家は
それだけしかない。
まあいいか。時代は着実に変わっている

 

越後の山奥の雪溶けは遅い。
そして残雪のその色は目立つ。
しかし、春はちゃんと来る。
蕗の薹、つくし、・・

 

迷うことない1本の山道は、狭くなり、迫り来る山肌に雪が目立つ。 パッと集落が現れるが、人の姿は少ない。
ここは秋山郷への入り口、津南。
平家の落ち武者はここら辺を通った?
さらに奥地の人里離れた、山あいを目指して。
春はここら辺にも桜を咲かす。
ここは津南という。人家は山裾に並んでいるが、方向を変えると鄙びた村に見える。
 
俺はよう、昔10人もの家族に大事にされてよう、
雪掻きもしょっちゅうしてくれてな〜、
夜になったら、爺〜が囲炉裏に子供呼んでよう
昔話を毎日してたのを聞いてたただよう〜。
それが、今度な、郷土保存館を作るんだゆうて
分解されて、ここへ運んで来られてよう
だ〜れも住んでくれね〜だ。
さびし〜い。
津南の郷土保存民家の藁葺き屋根は家の中を見せてくれた。
冬の雪にも、風にも耐えられるように外に木の塀があった。
 
この屋根はなあ、見かけはよくね〜がな、
冬あったかくて、夏涼しくて
え〜んだぞ。
最近は屋根の藁も茅も材料がすくないから高いらしい。
さらに葺ける職人も少ない。もっと保存運動を進めて。
 
蓑と菅笠
通気性が良く、汗も蒸発しやすいと聞く。

時代劇と漫画の世界でしか見れない。
しかし、なんとなく郷愁を感じる。

 

出入口に飾ってあった。手触りは悪くない。
現代でももう少し実用化されてもいいように感じるが。
 
おっ母―よう、町ん人が見てるよ。
恥ずかしいから、寝ションベンのフトン仕舞えよ。
しかし、何しにこんだらとこ迄来んのかな
町んほうがよっぽど見るもんがあるのになあ。
ここらへんが秋山郷。狭い谷あいに数十軒。どの家もさして大きくない農家風。屋根はほとんどトタン葺き。垣根なし。
昔は全部,藁葺き屋根だったんだろうに。しかし純朴な景色。

 
おーい、そこの写真撮ってる人、
恥ずかしいから写さないで。
それより、お茶入ってるから飲んでいきな。
なんて誰も言ってくれなかった。
一度行ったくらいで地元の人と気楽に話したり、
家に入れてくれたりの関係は無理だよね。
前の写真の集落の峠から俯瞰。何か普通の町の風景と変わりがない。 なぜ?。屋根がトタン葺きで赤、青の原色だから。
藁葺き屋根の写っている、30年位前の写真でもないかしら。
家の中はもっと近代的で、囲炉裏もなく、床暖房だったりして。
 
与太、熊、みんな来い。おどーが獲ってきた
野兎がよく煮えてるぞ。食え、食え。
与太、今日は隣の村までおつかいに行っただと。
えらくなったなあ、さぶかったろ、
熊、粗朶をもっと燃やせ。
ほれ、雪が強くなってきたど。
明日はまた雪掻きだぞ、頑張らねばなあ。
この保存民家には、山仕事や、冬使う道具が並んでいた。
家の中は部屋の区切りがなく、もちろん、天井もない。
実際はどのように寝て、どのように休んで、どのように
食事をしたんだろう。家族の暖かみがわかるような、生活を彷彿させるような展示がほしいね。

生活の中心、家族全員が集まる囲炉裏

 
ここから先が秋山郷だ。よく来てくれたな。
落人の平家茶屋で休んでくれ。
お酒もあるし、岩魚焼きもあるでよう。
今度は秋の紅葉を見においでな。
清津川の上流、中津川渓谷沿いに道を進むと標識があった。
平家茶屋は落人風ではなかったが、店の人が田舎風のもてなしで気に入った。お客がいないので岩魚焼きが早くでてきた。
 
雪がきれいだから撮ったけど、
何んもないから
次、いこーと。

 

木を乾かしてるのか、あるいはキノコの栽培でもしているのか。 何か気になるし、スナップもいいのでパチリ。

 

この桧はな、家の守り神じゃけんな。
北からくる風や雪を和らげてくれるんじゃ。
しかし、この家も年とった。
近々屋根を葺き替えたいがなあ、
どうなることか……。

 

人が住んでいる藁葺き家。土台に石を使う。
家の外板は古ぼけている。屋根に草が生えていた。

 

 

 
苗場山スキー場の反対側斜面。
苗場山からの豊かな水が
荒い滝となって落ちる先は中津川。
その昔、大蛇がこのあたりに棲んでいたとか。
昔は人家のない秘境だったのだ。

 

苗場山が正面奥。その反対斜面には、スキー場で俗化されているのに、こちら側は秘境。

 


狭い往来から下がった所にその農家はあった。
祖母に夫婦、子供が3人。
わずかな畑で採れる食べ物だけでは生活できねえ。
そやけえ冬は栃の木で木工さしてえ、春〜なったら
売り〜行くだがな、なんぼうもなんねえだ。
だけどよう、春はまだええ。
山菜がとれるだでよう、飢えは凌げるで。
秋山郷で見つかった藁葺き屋根は郷土保存の対象であった。
それにしては保存状態が良くなかったなあ。
雪溶けの清流が流れる川っぷちに温泉があちこち。
その昔、落人は
畑の少ない山間で、
何を糧にして生活しているのか。
冬には春が来るまで、湯につかり
夏はわずかな畑を耕して、疲れをとるため湯につかり。
屋敷温泉、秀清館(0257-67-2168)。ここら辺に豪族の屋敷でもあったのか、中津川縁に建つ工事中の温泉。
 
白樺は雪と色がよく似合うが、
白樺も雪と闘って、倒れないように踏ん張る。
そして、夏にはあのやさしげな木陰をつくる。
白樺よ頑張れ。
秋山郷の最奥にある切明温泉のキャンプ地。
ここから先は志賀高原に抜ける林道だが、雪で通行禁止。
夏にくるのも悪くないかも。